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セーク村の結婚式(後)
投稿日 2018年10月5日 15:49:00 (ルーマニア)
起床は6時。
6時半には、花婿宅へ向けて車が出発する。
普段ならこのように早起きをする必要はないのだが、
今回は花婿の住まいが遠くの町にあるがためである。
セークから1時間のところに、べトレンという町がある。
花婿の自宅は歓迎と記したアーチで飾り付けてあった。
「ようこそ、親愛なるお客さま。」という札と、
生花で飾り付けたアーチをくぐる。
ふたりのセークの女性が出張着付けをしに来たのだ。
次々に服を重ねて、やがてセークの女性に変身していく。
「子どもさんがびっくりするほどきれいになるから、見ていなさい。」
陽気なおばさんたちに、すぐに打ち解ける。
一方、花婿は、あっという間に身支度を終えた。
「何度もセークの衣装を着たんだ。」
とすっかり村になじみ、結婚後も花嫁の故郷に住むことに決めたそうだ。
「セークの男性みたいに立派よ。」
と若く堂々たる体格の花婿に見惚れる。
茶色いウールのパンツをはき、
バラの刺しゅうのほどこされた赤いネクタイをする。
これは若者の象徴で、結婚すると同時に黒に変えなければならない。
そしてウールの丸い帽子の上には、一際大きなボクレータ。
まるでクジャクが羽根を広げたように、華やかだ。
花嫁花婿の最も親しいものが何人か選ばれる。
女性は、花嫁衣装とほぼ同じである。
緑と黒のチェック柄のウール素材のプリーツスカートに、
ガーゼのように繊細な織のプリーツエプロン。
男性は、ウールの丸い帽子にボクレータが輝く。
手には美しい模様がつき、赤いリボンが下がったステッキをもつ。
花婿宅にセークの人々が楽団とともににぎやかに到着。
花婿宅の庭へ入ると、ここで花婿の別れの儀式がはじまる。
花婿の付添人が、長い別れの詩を読むと、
花婿の両親や親せきの人々が別れのキスをする。
「まるで葬式みたいに泣いてたよ。」と後に花婿が苦笑して話していた。
普通は同じ村の中で行われることなのだが、
花婿が遠くの出身であるがために、この後は車に乗り込んでセークに向かわなければならない。
セークの着付けのおばさんたちは花嫁の着付けのため、一足先に村に帰ってしまった。
「大丈夫。あなたはあの人と一緒の車に乗って帰りなさい。」
着付けをした男性を示した。
その男性がすでに車の運転席に乗り込んだ。
同じくセークの衣装を着た奥さんが助手席に、
そして後部席に入ると、隣にいたのは何と花婿だった。
結婚式の取材にきて、花婿と同じ車に乗れるなんて幸運なことだ。
花婿の車を先頭に、何十台もの車が列をなして、セークを目指す。
「セークの衣装の着心地はどうだい?」と花婿が親友の運転手に尋ねる。
「いいよ。だけど運転するのには適してない。」と
パリパリに糊がついて広がった袖で何とかハンドルを操縦している。
「息子に今夜はセークで寝るのと話したの。
そしたら、セーク(椅子)でどうやって寝るの?と目を丸くしていたわ。」と笑う。
花婿は時間通りに来られるのか心配のようだ。
町出身の若者がどうして村の伝統的な結婚式にこだわるのかが知りたかった。
「ジュジャ(花嫁)とふたりで、
どうしても伝統的な結婚式がしたかったんだ。
それでも、昔のような小屋がなくて、
僕たちのは半分が伝統的、半分はレストランになってしまったけどね。」
村に入り、中心の小学校の前で車を止める。
すでにセークの参列者が待っていた。
たくさんの子供たちが美しいセークの衣装に身を包んでいる。
花嫁行列をひと目見ようと、村人たちも門の前までやってきた。
初めに、行列の先導者がふたり、
次に花婿、花婿の付添人の女性たち、
それからボクレータをつけた男の子たち、ヴァイオリン、ビオラ、アコーディオンの楽団、
最後にその他の参列者たちと続いていく。
セークのゆったりとした、
哀愁あふれるメロディーが鳴り響き、
そのリズムに合わせて、ゆっくりと歩調を合わせて進む。
少年たちは手に持ったステッキを、リズムに合わせて打ち付ける。
音楽のリズムと、荘厳な花嫁行列の風景が見事に調和している。
一方、花嫁宅では、同じようにアーチを取り付けて花婿の行列を待っているところだった。
白と黒が清楚で美しい、セークの若い女性たち。
次の花嫁になるのは、誰だろうか。
花婿を伴った、行列がやってきた。
門のところで掛け合いがはじまる。
「誰を探しているのか。」
「花嫁を迎えに来た。」と先導者が応える。
こうした問答がつづき、ようやく門が開かれる。
花婿たちは、花嫁のために用意された清潔の部屋に通される。
すぐには花嫁を差し出さないので、
2人ほど別の女性が連れてこられ、
ようやく花嫁が花婿に引き合わせてもらえる。
食べたり飲んだりの小休憩をはさんで、
いよいよ花嫁の行列を合わせて、教会へ向かう。
赤いバラと金色の紙で縁取られたパールタをのせた花嫁の姿は、
中でも光り輝いていた。
ゆったりとした足取りで花嫁になった喜びを踏みしめるように、
静かに厳かに歩んでいく。
花嫁の表情を見ているうちに、はっと気が付いた。
セークの女性たちは幾度ともなくこの姿を見ながら、憧れつづけ、
ようやく晴れの日を迎えるということに。
「いつかはあの花嫁になりたい。」そう思いながら、
花嫁行列を見、時にはその行列で歩みを共にしてきたに違いない。
教会へ向かう道すがら、
通りにロープで
Source: トランシルヴァニアへの扉 – Erdely kapuja-
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