-
カロタセグの羊祭り
投稿日 2020年2月21日 22:00:00 (未分類)
4月のある日、
ナーダシュ地方の村を訪ねていた。
羊祭りは、かつてどこの地方にも見られたという。
寒い冬を越すために村を離れて放牧をしていた羊が
春になって村に帰ってくることを祝う祭りである。
本来なら村に到着する前に、森の中で前夜祭があるらしかったが
昨夜は冷たい雨が降っていた。
台地はうっすらと緑色のじゅうたんで包まれている。
なだらかな丘の曲線の向こうから羊の群れが確認できた。
村の楽団や、祭りを祝おうと遠くハンガリーから駆け付けた人々が
丘の上でひたすらに待つ。
そのゆっくりとした足取りを待つのも、悪くない。
祭りの始まりを楽団の演奏によって
徐々に気持ちを高揚させるようだ。
羊の群れと落ち合い、いっしょに演奏や歌で祝ったあと、
今度は村へと降りていく。
ベージュ色した動物が怒涛のように押し寄せる様子は、
まるで洪水のようであり、圧巻である。
雪解けで泥だらけになった道を、
羊とともに人の群れも突き進む。
そして面白いことに、
羊の背にはそれぞれカラースプレーで色が塗られている。
誰の所有であるかすぐにわかるようにだろう。
いかにもカロタセグらしく、
パーントリカと呼ばれるリボンで飾られた羊。
晴れ着の衣装に使う、上質のリボンである。
村の本通りに到着するや否や、
前方で大きな叫び声が聞こえた。
なんだろうと見やると、
村人たちがバケツ一杯の水を行列に引っ掛けたのだった。
どうして水をかけるのと聞くと
「羊に水をかけると、乳がよく出るらしいからよ。」と村人。
それでも、明らかに水は羊飼いや楽団のほうに向かっていた。
祝いの場にふさわしく、
艶やかな赤い衣装に着替えた人たちの姿も見られる。
もちろん、有名なダンスも見ものである。
小さな通りを埋め尽くす、羊、羊、羊・・・。
イースターには子羊を食べるし、
羊のチーズはルーマニアでは牛のそれより重宝されている。
食卓には欠かせない動物である。
祭りの様子を、楽し気に見守るおばあさん。
何度かこの見事な門の前でこのおばあさんを見たことがある。
いつか孫息子の写真をもっていったときには
お礼にネックレスを贈ってくれたこともあった。
門にはカロタセグの民族衣装を着た女性の姿や
天使のレリーフも見られる。
中心の広場につくと、今度はお宿に向けて通りを進んでいく。
娘は、友人の長男ゾーヨムとくっついて離れない。
この通りを進んでいるときに信じられない光景を目にした。
ちょうど目の前で、バケツの中をひっくり返す女性がいたのだが、
それは空っぽで、だまされたと安堵しているとたん、
その家の二階の窓からバケツ一杯の水が群衆に向けて引っ掛けられたのだった。
ものすごい声とともに、可哀想にびしょ濡れの楽団たちの姿があった。
何かの葉で水をかける人もいる。
水かけといえば、ハンガリー文化圏では、
イースターの月曜に女性に男性が水をかける習慣がある。
水とは春を連想させる何かなのかもしれない。
こうして村はずれの宿につくと、
奥の納屋に羊たちは通され、そこで乳しぼりがはじまった。
こうして誰の家に一番多くチーズができるか競争するようだ。
絞り終えた乳を入れた木桶を運び、
民家ではダンスが始まった。
きらびやかな衣装に身を包んだ少年少女たち。
音楽にダンス、そして春を迎える喜びが入り交ざって、
さらにいきいきと祭りが繰り広げられる。
小さな娘とゾーヨムも見よう見まねでステップを踏んでいた。
こうして、祭りは次の日までつづくようだった。
生きることとは楽しむこと。
カロタセグの人々を見ていると、
いかに人生を楽しむことに熱心であるかがわかる。
家畜が家に帰るという出来事をも、お祭りに変えてしまう
人々のおおらかさが愛おしい。
今では、ハンガリーのフォークダンス愛好家たちに支えられて、
カロタセグの文化も勢いを盛り返しているようだ。
美しい衣装とともに、人々の娯楽の営みが続くよう願ってやまない。
Source: トランシルヴァニアへの扉 – Erdely kapuja-
Source: 東欧あんてな
続きを読む>>最新情報