-
シク村、ローズマリーの冠作り
投稿日 2019年11月14日 00:03:00 (未分類)
夏休みも終わりに近づく頃、
シク村で今年最後の結婚式がひらかれるという噂を耳にした。
場所は、チプケ地区。
しかも、我が家から目と鼻の先のご近所さんのお宅が舞台となる。
その日を今かと待ちわびていた。
村では、結婚式の準備は二日前からはじまる。
花嫁宅では、天幕を張って、
男性も女性も慌ただしく出入りしていく姿が見られた。
お隣のロージおばさんも、お菓子を焼くと話していた。
誰が何を焼くのか、事前に話し合いがあるのだという。
ロージおばさんは伝統的な焼き菓子、ジュジ・キフリにとりかかる。
80年代頃、村ではじめてジュジャさんが作ったというお菓子だという。
といっても、ジュジャという名前はこの村ではありふれていて、
ジュジャでない女性のほうが少ないくらいだから驚かされる。
卵黄と砂糖、サワークリーム、小麦粉、油を混ぜた生地を
うすく、うすく手間暇かけて伸ばしていく。
紙のように薄い生地をまたクルクルと丸めて、
生地を休ませる。
数時間休ませた後、
生地を再びうすく伸ばしていき、
4等分したものに、白味と砂糖で作ったメレンゲをのせる。
慣れた手つきで丸めて、オーブンへ。
粉砂糖をかけて出来上がり。
まるでパイ生地のように繊細な生地と
中のメレンゲがとけて、まるで空気のように軽い口ごたえ。
シク村の人の好みをよく表すような、繊細な焼き菓子である。
一方、こちらは花嫁宅。
冠作りの職人ジュジャおばさんが働いている。
きれいに切りそろえたローズマリーの茎を
針金で作った型に並べて、一束一束縫い付けていく。
香り高いハーブの香りが、部屋いっぱいに満ちていた。
冠を持つのは、花嫁の祖母のおばあさん。
二列と、さらに顔の横にくる飾り部分を作った後、
今度は、花嫁がリボンで作った小さなバラの飾りを縫い留めていく。
ローズマリーの緑と、リボンの赤が鮮やかに目に飛び込んでくる。
このローズマリーの冠は一度切りだから、
まわして使うことはできない。
二日かけて作るから手間暇かかることこの上ないが、
そのためにこの職人技が今に残ってきたのだろう。
花嫁のもう一人の祖母も見にやってきた。
ローズマリーの冠は結婚式の目玉である。
そのために、花嫁の母親やその他の親戚も何度となく
出来栄えをのぞきに来ていた。
三列のバラの花を並び終えたところ。
さらに、金色アルミ紙を四角く切ったものをつけていき、完成となる。
花嫁の頭に合わせてみる。
150~200束のローズマリーを使うというのだから、重いはずだ。
花嫁の祖母も、満足そうに眺めていた。
花嫁宅の出入り口では、先ほどまで
酒盛りに演奏と男性たちが盛り上がっていたのだが、
男性も女性もともどもボクレータ作りに取り掛かっていた。
ご近所のマルトンおじさんの家でも、
やはりボクレータ作りが行われていた。
まるで植木屋さんのようにローズマリーを剪定し、
奥さんがリボンのバラを縫い留めた後、
再びマルトンおじさんの手によって蝋のバラが埋め込まれていく。
かつて花嫁行列の先導者を何度も経験したおじさんは、
自分でボクレータを作るうちにその道を究めたという。
夏のわずかな期間しかない仕事だが、
その取り組む姿は真剣そのもの。
赤、白、紫、ピンクなどの
甘いお菓子のような滑らかな光沢を帯びた蝋のバラ。
生の草を使うため、永遠にはその緑は続かない。
結婚式その一日のために、
美しいものを生み出そうとたくさんの手が動いている。
その人々の心は、100年前とまったく変わらない。
花嫁のパールタと花婿のボクレータは、
結婚式の後、額装される習慣もある。
緑色は失われるものの、茶色く干からびた冠と帽子飾りは、
結婚式の美しい記憶とともに永遠に封じ込められるのだ。
*ジュジャおばさんのローズマリーの冠作りは、
Source: トランシルヴァニアへの扉 – Erdely kapuja-
Source: 東欧あんてな
続きを読む>>最新情報